非対称情報の経済学―スティグリッツと新しい経済学
「最適」な選択の裏にあるもの
すごーくざっくり言うと、買い手と売り手の間に、情報量と情報の信頼性の差が生じるため(非対称性が存在するため)、理想的な市場均衡というものが実現しない、という新しいアプローチのごくごく簡単な解説。
面白い。
中古車市場、保険市場が取り上げられているけど、これっていうのはいろいろなところであてはまると思う。前もどっかで書いたのだけど、彼氏・彼女を選ぶときって、相手のことは実はよく分からない。だから最適な選択ということが起こらない。また、古い相手(自分が情報を持っている相手)になぜかこだわってしまったりする。
こういう非対称性を解消するために人はもがくのだし、こういうもがきが「執着」なんだよね。結局最近いつもここに帰結するような、、、。
あと、ジョン・ナッシュの話がちらっと書いてあった。なぜ、個々人が不満に思うような社会制度が存続するか、っていうことについてナッシュさんは考えて、そういう状態をナッシュ均衡の状態という風にして説明したらしい。『ビューティフル・マインド』って珍しく二回も見た映画だけど、裏側がちょっと分かって面白かった。そんなこと考えてたらちょっと錯乱するよ。
入門書としてはおそらく最高
スティグリッツ門下の薮下教授による、スティグリッツ経済学入門の書である。この本を読む前提として、市場均衡を前提とする古典派経済学のあらましについては(あの需要曲線と供給曲線で価格が決まるというやつ)知っておいておいたほうだろう。本書は、スティグリッツの主張である、「情報の非対称性がある場合均衡は成り立たない」ことを種々の例で示し、市場の「見えざる手」が働かなくなることを証明した上で、その弊害について述べている。
本書は入門書であるので、それ以上の突っ込んだ議論はなされていないが、それは教科書に当たって欲しい、ということだと理解できる。入門書として割り切って読む分には問題はなかろうとは思われる。
本書が論敵と考えているのはシカゴ学派、とくにフリードマンだろう。そういう意味で、仮想敵を知るためにフリードマン夫妻の「選択の自由」も一読することをお勧めしたい。
非対称情報の元では市場は均衡しない
スティッグリッツ氏はアダム・スミスを祖とする新古典派経済学の市場原理による市場の自律的均衡の限界を指摘する。それはミクロ経済学の入門書の定番となっている需要と供給が均衡点で交差するモデルが現実の経済活動を正しく表現できない(できなくなってきた)理由として「商品の同質性」「情報の完全性」「所有権」の3つの前提条件の欠落を指摘する。
1つの例は中古車市場である。従来の需要曲線では価格が高いと需要は減り、価格が低いと需要は増えていた。ところが、中古車市場(ネット通販やオークションもあてはまるとレビュアーは理解)では個々の中古車の欠陥に対する情報が供給側は熟知していて、購入側は情報がないという”非対称”ゆえに、消費者の行動心理として、安いもの=何か欠陥があるだろうと判断することになる。すると、これまで”X”字型に交差していた需要と供給の関係のグラフ上で需要は”つ”と”/”の2つの線からなる需要、供給の関係のグラフと化す。しかも、この2つの線が接点をもたない時、市場(取引)は成立しないことになる。ほかの例や説明も大変に興味深かった。
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